夢日記

自分用

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私は真夜中に、近所の寺の墓場で友人と遊んでいた。


肝試しのような感覚で暗い場所へ行き、なぜか二人でかくれんぼを始めた。私が鬼だ。


しかしいくら探しても友人は見付からず、代わりのように墓の影に顔の無い子供たちが点々と倒れている。


学生服を着た男子が信号機の上でヤンキーのような座り方をして、こちらを眺めて笑っていた。



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世界の不思議な生き物、というような番組を見ていた。


まず「ファザースター」という生き物が紹介された。


崖のある海辺での撮影だ。浅瀬にいるスタッフ達に現地の案内人のお姉さんが「危ないわよ、下がって!」と声をかけ、カメラマンと一緒に逃げた。


逃げながら撮影されたそれは、3mほどはありそうな歩くヒトデだった。5体程が群れで歩いている。


動きは緩慢で、足は太く長い。背が高いので足しか映っておらず、カメラが慌てて上の部分を映した。


上の部分は残りの3本の足が人間の頭と腕のようなポーズをしていた。なぜか青白い電流が流れている。


ナレーションが「上半身がこの通り、Father!」とおどけて言っていたが、何がFatherなのかよく分からなかった。


ここのFatherの言い方が、『Don't hug me I'm scared』の3話の最後の赤ちゃんにひどく似ていた。



次に紹介されたのは、赤い小さなオウムのような鳥だった。トサカが異様に大きく、硬い羽でできているらしかった。撮影地はどこかの荒れ地のようだ。


「続いてこちらはブレード○○(覚えていない)!その名の通りの剣士!」とナレーションが言う。


トサカを使って群れの中の2羽が戦っていた。


片方は負けて吹っ飛んでいった。



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夜中、私が寝ているソファーに顔と翼と脚の無いひよこが次々と投げ込まれてきて目が覚めた。


ひよこたちは這いずるようにのろのろと動き、その足取り()は覚束無い。


飛び起きて「誰?」と聞くがそこには誰もいない。


ひよこたちがソファーから落ちないようまとめて布団にくるみ、起き出して他の家族が寝ている和室を覗いてみた。


すると、黒い羽毛でできたギリースーツのようなものを着た男が、眠っている家族の枕元に例のひよこを並べているのが見えた。



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駅前で、サラリーマン風の男が「この空は作り物だ」と喚きながら折れたビニール傘を頭上に突き上げて振り回している。道行く人々は露骨に嫌そうな顔を彼に向けて通り過ぎて行く。


しばらくそれを見物する事にした。


男は傘を振り回し続けながら「全部嘘ついてんだよおおお、お、お、俺のこと馬鹿にしやがったな!」と酷く吃りながら泣き叫び始めた。そしてその場にへたりこみ、子供のように大声を上げて号泣する。


少しの間観察していたが、男はすっかり暴れなくなってしまった。喚きもせずただ泣いている。


私は見物をやめて近くのコンビニへ向かった。



店内に入ろうとしたその瞬間、周囲の人々が一斉にざわめいた。振り返ると全員が同じ方向を見上げている。


私もつられてそちらを見る。すると、隣町のビル群の方に大きな黒い塊が見えた。


その塊は膨れ上がっていき、そして突然伸び上がって、幼児が駄々を捏ねるような独特な声で遠吠えをした。


その音波によって、ガラスが割れるように空が吹き飛んだ。


そして現れたのは、生肉に無数の巨大な眼球をめり込ませたような気色の悪い壁だった。


数十秒ほどおいて、割れた空のかけらが降り注いでくる。



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私は友人と共に、浅草の雷門前にいた。なぜかとんでもない人だかりができている。


私たちは野次馬をしようと、人だかりの間を縫ってその中心を覗き込んだ。


人だかりの中心にあったのは刺殺された人の死体だった。


「人死んでる!ほら」と私は友人と入れ替わるようにして友人にその光景を見せた。友人は小さくうわーと呟き、「犬が出たのかな」と言った。犬とは、東京の都市伝説らしかった。今までも私の夢に何度か出てきた事がある。


まだ事件は起こったばかりだったようで、数分してから警察が駆けつけてきて野次馬はその場から追い払われた。


報道陣らしき人たちが来ていたので、私たちはその場を後にした。



私たちは帰りの電車で、先程の光景について話していた。友人がおもむろにスマホでニュースを開き、テレビの生中継を見せてくれた。


立入り禁止地帯のギリギリまで人混みが集まっている。目撃者らしき人がインタビューに対して「犯人は横の建物の庇から雷門の上に飛び乗って、その後どこに行ったかよく分かりません」と答えていた。都市伝説をあまりよく思っていないらしいコメンテーターがワイプ内で「それはないでしょ」と言って苦笑する。


インタビューを受けている人の後ろで、便乗して映りに来たらしい若者たちがVサインを出していた。



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私は幽霊になっていた。


記憶になかったが、登校時に電車に飛び込んだらしい。自殺者は成仏できないというのは本当なんだなと思った。


視認されないのでよく知った人に話しかけても無視されてしまう。心細かったが、人間以外の動物には気配が分かるようだったので、自宅へ赴き猫たちと会う。


生前と同じように触れ合うことができる。


しかし物を動かすなどして生きている人を驚かせすぎると、空を飛んでいる巨大なヒルに消されてしまうのだという。


心霊現象の頻度と死人の数が合わないのはこのせいか、と妙に納得した。


空を飛ぶヒルに勝てるほど強大な霊だけが、人間に影響を及ぼしているのだろう。



家には誰もいなかった。私は生前の記憶から、午後6時頃まで自宅が空き家であることを知っている。


まだ午前の9時頃だったので、のんびりとアクションゲームを遊んでいた。


ハードモードをプレイしようとしたが、下手なのですぐ死にかけてしまう。


苦戦していると突然隣から「あーもう!」と言われ、コントローラーをひったくられた。


見ると同い年くらいの男子学生がいた。私の拙いプレイを見て痺れを切らしたようだ。


学生はこちらには目も向けずに「下手すぎ!俺がやる」と言い張る。私は若干驚きつつ「え、ごめん じゃあ任せる  見てる」と言った。


学生はあーともうーともつかない生返事をした。ゲームが得意なようで、余裕綽々でハードモードをこなしていく。



この学生も幽霊なのだろうか。機会がありそうなら聞いてみようかとも考えたが、学生はかなりゲームに熱中している。攻略のコツと思わしき一人言をずっと呟いている。私は手持無沙汰なのでとりあえず学生に緑茶を出し、あとは猫を撫でながらゲーム画面を眺めていた。


6時になったらこの家の人帰ってくるよ」と言うと、学生は画面を凝視したまま「そんなにかからんわ」と呟くように答えた。



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夜、眠れないので家を抜け出して散歩をしていると、電灯の下に誰かが踞っているのを見つけた。


近づくにつれ、それが小さな男の子であることが分かった。弱冠56歳だろうか。


思わず声をかけようとすると、「お姉ちゃん」とその子の方から呼び止められた。


「うん?」と咄嗟に不明瞭な返事をする。その子はしゃがんだまま私を見上げ、いたずらっぽくニヤニヤとしながら「みて」と何かを掴んで突き出してきた。


それは腹を裂かれ、内臓の溢れ出た鼠の死体だった。その体にはでたらめに爪楊枝が刺さっている。



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友人とみなとみらいにいる。


コスモワールドに入ろうとしたが、休園日らしく人影は見当たらない。


門も閉じてあったが、私達はなぜかその隙間をくぐって平然と園内に侵入した。


そしてミニコースターの線路を歩いたりトロッコ式のお化け屋敷に侵入して写真を撮ったりと、かなり滅茶苦茶な事をして遊んでいた。



観覧車に乗ろうとして、ゴンドラの中で人が一人バラバラになって死んでいるのを見つけた。おそらくこれが休園の理由だろうなと思った。


私と友人はそれを見送ってから観覧車に乗り込み、飼い猫の話などをしながら外を見ていた。頂上付近から見下ろしてみると、園内どころか道路にも誰もいなかった。


やがてごく普通に一周してゴンドラから降りた。


私はシースルーのゴンドラに乗ろうと友人を誘ったが、友人は「怖いからやだよ 一人で行ってこいや」と背中を押してきた。



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ゲームの中から出られなくなってしまった小さな女の子が、奇妙な鹿の面を掛けた白い鹿に乗って黄金の海底都市を探検していた。


そこは竜宮城というようだ。金色の光に満ち溢れていて、魚たちは揃って鹿と女の子を歓迎する。この景観は、おそらく『ABZU』というゲームに影響されたものだ。


女の子が感動して目を輝かせているのを、白い鹿は物言わず見つめている。


この白い鹿は命のある場所にならどこにでもいる(行ける?)らしい。閉じ込められてしまったこの女の子に生きる気力を与えるためにここに来たようだ。



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夜だ。


私は近所の寂れた公園の前にいる。


滑り台の影に誰かが座っているのが見えた。目を凝らすとそれが妙に薄着の子供であることが分かる。


おそらく6才くらいであろうこの子供はネグレクトを受けている。夜勤の親が帰ってくるまで家に入ることができず、ご飯や服などもない。


夢の中の私は子供と知り合いで、毎晩この公園に来ては世話を焼いているらしかった。



私は公園に入り、子供に小さく手を振った。


子供は無造作に伸ばした前髪の下から、睨むようにこちらを見上げている。


名前を呼ぼうとしたが私は子供の名前を知らなかったので、咄嗟に「やあ、寒くない?」と声をかけた。


言ってからやあ、というのはおかしいなと思ったが、子供はそれを気に入ったらしく「やあー」と動物が鳴くように返事をした。


それから少し間を置いて「さむいよ?」と言うので、私は着ていた上着を子供に着せた。



夕飯を買うため、手を繋いでコンビニへ向かう。


「昨日はお風呂入れた?」と聞くと「はいれなかった」と言う。「じゃあ銭湯行っちゃおう」と言うと子供は無言でばたばたと飛び跳ねた。


この子供は笑わない。嬉しいときや気分の良いときはこんな風に飛び跳ねるのだ。


まだ22なので電車がある。近くにスーパー銭湯のある駅まで電車で行くことにした。


駅で二人分の切符を買う。駅員が訝しげにこちらを見ている。



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コートを着た男性に道を聞かれた。


この時期にコートはおかしい。不審者かもしれない。


気をそらさせようと空を指差すと、男性はその場で自殺してしまった。



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撮影用のスタジオのような場所にいる。


大型の機材が雑然と設置されており、空気は埃っぽく閉塞感が強い。


地面に黄色いマスキングテープで矢印がつけられている。私は好奇心からそれを辿る。


そうして行き着いた先の、コンクリートの打ちっぱなしの壁に人の顔が貼り付いていて、潰れた眼球がぶら下がっていた。


壁に勢い良く激突して頭を引いたら、顔だけが壁にくっついたまま頭から剥がれてしまったような感じだ。


つまりどこかに顔の無い人がいるはずだと考え、私はスタジオ内を探索する。



分厚い黒いカーテンを引くと、頭を抱えてうずくまっている男の子がいた。


幼稚園のスモックのようなものを着ていて、赤白帽を被っている。私は、この男の子は熱中症対策の為に屋内にいるのだと思った。


数秒経った頃に突然男の子は金切声を上げ、私を突き飛ばして逃げていった。


私は何の脈絡も無く「レゴがあるよ、レゴがあるよ」と男の子に声を掛けた。男の子は泣き叫びながら走っていく。


いつの間にか私は右手に鋸を持っていた。ああこれが怖かったのかと鋸を放り投げて顔を上げると、スタジオ内の全てのカメラがこちらを向いている。


私はそれが嫌だったので全てのカメラを端から順に外側へ向けた。


その途中で先程の男の子が床に倒れているのを見たが、私はそれを放置された差し入れであると思い込んで無視していた。



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私は、自宅から逃げ出そうとしていた。


理由は忘れてしまった。


ベランダの手摺を乗り越えて、下の階のベランダへ降りる。その瞬間、下の階の住人と目が合った。


その住人はなぜか、幼馴染の母親だった。


不思議そうにしながらベランダへ出てくる。


私は「すみません、こんにちは すぐに出ていきます」とあわてて言いながら、そそくさとさらに下の階へ降りる。


いつの間にか、知らない住宅街にいた。


夢の中ではそこが自宅マンションから出た先であるということになっていた。


私は後ろを振り返りつつ急いで逃げる。


慌てて出てきたからなのか知らないが、右足に父親の靴を履いており、左足にサンダルを履いていたので、ひどく走りづらい。


私は結局靴を脱ぎ捨てていく。



私はいつの間にか森にいる。


目の前の茂みをかき分けて行くと、10メートルはありそうな、しかし妙にしなやかな巨木に囲まれた空間に出た。囲まれたというか、巨木が不自然にその区画だけを避けているような感じだ。


さらに奥へ進み、また茂みをかき分ける。



するとまた場面が変わり、いつの間にか私は友人と共に、誰もいない道を歩いている。そこは郊外のようだ。


知らない学校のグラウンドの横を通る。その先は分かれ道になっており、枯れ草が生えて砂利で舗装された一本道と、草が生い茂り傍らに並木の植えられた曲がり道があった。


曲がり道の方に獣道のような跡を見付けたので「こっち道っぽくなってるよ!」と言うと、友人は「いやそれだったらこっちの方が道っぽいだろ!」と一本道を指差す。


たしかにそうだ。むしろ、そちらは舗装されているので普通に道路だ。


「何でわざわざ道無き道を行こうとしてんだよ」と言われて笑ってしまった。



砂利の一本道を通っていくと、妙な場所に出た。


そこは真ん中にフェンスで囲まれた四角いスペースがあり、その周りを道路が一周するように敷かれていた。フェンスの中には、枯れかけの木が一本だけ植わっており、フェンスにはこれでもかというほど「立ち入り禁止」の貼り紙がしてある。


「なんだあれ、あの木そんな大事なんかな」と言うと「ご神木かなんかなんじゃない?」と友人が言う。そうかなと思い周囲を見回すが、別段祀られているような感じでもない。


雑談をしながら何となく周りの道路を一周する。



すると道が続いていることに気付いた。続いているというよりは、そこだけ縦3.5メートル横2メートルほど空間が四角く切り取られたようになっており、向こう側が見える。


覗いてみると、向こう側は夜だった。海沿いの道に街灯が並んでいるが、どれも灯りはついておらず非常に暗い。向こうの方にビル群が見える。


「うわ夜だ やめとこ 向こう行こうぜ」と友人が私の背後を指差す。


振り返ると、同じように空間の切り取られたものがあった。覗いてみると向こう側は夕方だ。遊具の一切無い公園のみが見える。



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私は小学生の時に通っていた塾の教室で、ノートに徒然草を書き写している。


斜め後ろから見知らぬ女がこちらの手元を覗き込んでいた。女はめかし込んでいて若い。


目をわざとらしくぱちぱちとさせて無意味に頷き、小声で「うんうん、うんうん」と繰り返している。


私はこの女が何故だか非常に気に障った。


わざと書き写す手を止めてやると、女は「どしたの?どこかわかんないの?」と口を尖らせて首を捻る。


「いえ、大丈夫です」と答えて作業を再開した。死んでしまえと思った。


思ってから流石にそれは言い過ぎだなと考えたが、その時にはもう女は口から内臓を吐いて死んでいた。


私は徒然草を書き写し続ける。



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私は七歳になっていた。四歳の弟の手を引いて高架下を歩いている。


周りに人はいなかった。この町にはもう大人がいないのだということを何となく感じた。


私は当時気に入っていたキャスケットを弟の頭に被せ、公園の滑り台の下に弟を隠して「ここで待っててね」と耳打ちした。


私はジャングルジムのてっぺんに立って辺りを見回した。子供にしか見ることのできない透明な猫が無数にうろついている。


遠くに脚の長い鳥のようなものが歩いているのが見えた。関節に目玉がついており不気味な様相だ。


大人は皆それに食べられてしまったらしい。



現在の年齢の私がベンチに座って二人を見ていた。


もう私は透明な猫を見ることはできない。大人になってしまったんだなと思った。


あとは脚の長い鳥たちが来るのを待つだけだ。



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私は辺境にいた。


そこはゴーストタウンのようだ。よくあるような住宅街だが建物や電柱などは朽ちており、所々に粗大ゴミの山がある。


ここは元々は町だったが人がいなくなり、不法投棄の蔓延る場所になったらしい。


この町はごろつきを寄せないよう何重ものフェンスで囲まれている。



私はそのフェンスの内側にいる。


政府が重度の社会不適合者をこの町にまとめて移住させたといういきさつがある。


私は学生だが、このまま生きていても社会進出の見込みが無いため入れられたのだという。


だいぶ理不尽な気もするが、景色が好みだったためあまり悪い気はしていなかった。




私は以前夢の中で、龍のように動く大きながらくたの山を見たことがある。


夢の中の私はそのがらくた山を思い出し、あれはこの町での出来事だったのだと考えた。がらくた山が夢の中の出来事であったという事は思い出せていない。


せっかくなので久しぶりに会いに行こうと決めた。


以前の夢ではがらくた山は二つ居り、片方は翁の面をかけており穏やか。もう片方は犬の面をかけており凶暴だった。


翁の山を慕う少女というのも居り、ガラスの金魚鉢を翁の山に食べさせてやっていた。その金魚鉢を狙って犬の山が襲ってきたのだ。



私はそれらを思い出し、土産に持っていこうとガラスの金魚鉢を探す。また、犬の山が襲ってきても追い払えるよう大きなバケツに水を汲んだ。犬の山にはオーディオが大量に巻き込まれていたので、濡れるのを嫌がるだろうという考えだ。


そして都合の良いことに、壊れた自販機の横に金魚鉢が10個ほどまとめて捨ててあった。


私は四苦八苦しつつ全て抱えていこうとしたが断念した。側の家の庭に干してあったシーツを勝手に頂戴し、金魚鉢を包んで引きずっていくことにする。


私はがらくた山の住み処を目指した。どこにあるのかは分からないが、近くに枯れた畑があったことや文字の抜け落ちた某ホームセンターの看板が見えたことは覚えていたので、記憶を頼りに歩き回った。



道中、誰にも会わないことに違和感を覚えた。


昨今の生き辛い社会において、重度の社会不適合者などそこらじゅうに溢れていたはずだ。


実際に連れて来られた人は思いの外少なかったのだろうかと思った。だとすれば私はどれほどいらない人間だったのだろうと気が沈んだ。



唯一、コールタールを頭から被ったような真っ黒いどろどろとした人を見かけた。明滅する街頭の下にうずくまって、大量の金魚鉢と水の入ったバケツを引きずる偏屈な私を目で追っているようだが、その表情は見えない。


角が生えているように見えて二度見しかけたが、あまりじろじろ見るのも失礼かと思い素通りした。しかしすぐに、相手はこちらを凝視していたんだから私も遠慮なく見れば良かったと後悔した。


あの人をどこかで見たことがある気がする。夢の中ではがらくた山と出会ったときに見たんだと勝手に納得したが、実際にはそのような人物はあの夢には出てきていない。



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自宅マンションを出ると、アスファルトの道路がまるで沸騰した水のように波打っている。


何かが地面の下で暴れているようだ。


警備員が「危ないので下がって!道路に出ないで下さい!」と大声で呼び掛けている。



遠くから破裂音と、ひゅうという甲高い音がした。


それに呼応するように地面は更に波打ち、突然地面を突き破るようにして真っ黒な塊が飛び上がった。それは笛のような音を立てて風を切りながら、ロケットのように空高く飛んでいく。



「笛吹きだ!」警備員が叫ぶ。


この黒いものは笛吹きと呼ばれる、正体不明の物質だ。触れた人は化け物になり、笛吹きに連れ去られて消えてしまう。


私の斜め前で道路を覗き込んでいた男性が、笛吹きを顔面に受けてもんどりを打った。


そして仰向けに倒れたかと思うと激しく痙攣し、突如全身から腕が飛び出した。


周囲から悲鳴が上がる。警備員が「落ち着いて下さい!下がって!下がって!」と必死に怒鳴っている。


腕の生えた男性は、その大量の腕で虫のように這って道路へ向かい、流動体のようになって地面に溶け込んで消えてしまった。



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私は、壁やブロック塀の落書きを撮影するという謎の仕事をしていた。


高架下や路地裏を努めて通るととても効率よく仕事ができる。


落書きの中にひときわ黒いものがあったので近寄ってみると、それは奇妙な真っ黒い動物の絵だった。


その下には「犬烏」と書いてある。たしかに犬とカラスを足したような見た目をしていた。


くちばしや尾羽と翼を持ち、四つ足と犬の耳をしていた。


落書きの犬烏が動き出した。壁の中で他の落書きを食べている。そして目に見えて巨大化した。


面白いのでもっと落書きを食べてもらおうと思い、撮った写真を犬烏に見せて小声で「案内しましょうか」と聞いた。


犬烏はまばたきをすると壁をつたい、私についてきてくれた。



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カフェイン錠剤を買いに医薬品売り場に来ている。



前にいた小さな女の子が60錠のバファリンを買ってその場で開封し、まるでラムネでも食べるかのようにばりばりと食べ始めた。


思わずその様子を凝視していると、女の子はその視線に気付き「あ、違うの」と慌てた様子を見せた。「私ね、おくすりがご飯だから」とよく分からない弁明をしている。


「そうなんだ でも苦くない?」と聞くと「味よく分かんなくなっちゃって」とあっけらかんとして言う。「ええ~ 大丈夫?」と愛想笑いを浮かべつつ戸惑って薬剤師さんの方を見ると、薬剤師さんも私の方を見て、仕方なさそうに微笑んだ。



女の子は、食べ残したバファリンを大きなジップロックの袋に入れた。


袋の中は薬でいっぱいだ。しかも明らかにMDMAと思われる錠剤も入っていた。


小分けされた他の袋の中には、LSD紙とLSDの錠剤が入っている。


とんでもない人と出会ってしまったな、と思いながらLSD入りの小袋をぼーっと眺めていると、「あ、これカワイイでしょ あげる!」と上着のポケットにLSD紙を数枚入れられてしまった。



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以上