夢日記

自分用

066

母親が死んだ。

部屋で座っていると、父親が悲しいのか苛立っているのか分からない雰囲気で部屋から出てきてドタドタとキッチンに向かい、コーヒーを取って部屋に戻っていく一連の音が廊下から聞こえる。
私は数日の間仕事もせず寝食もせず、その音だけを聞いているようだ。

父親はリモートワークで毎日のように会議をしており、会議が上手く進まないと気分転換の為か部屋を出たり戻ったりする。
極めていつも通りだ。誰も母親が死んだ事など意に介していないように思った。



私は自分と母親の傘だけを持って外に出た。
母親に関する嫌な記憶がこの期に及んで蘇るので自己嫌悪に陥っている。あわよくば遁走を起こす事はできないだろうかとあてもなく家を出たようだ。

マンションを出る時、頭の代わりに黒い傘の生えた小太りのスーツのおじさんとすれ違った。
おじさん傘は私を振り返り、妙なイントネーションで「亡くなッた訳じゃないんでしょう?後追いはだめだよ」と言う。
私はそれを無視して行く。小雨が降っている。おじさん傘が背後遠くから「傘持ってンなら差しなよー」と声を掛けてきているのが聞こえる。

私は傘を差さずに歩き出す。

自分でもどこに行こうとしているのか分かっていなかったが、おじさん傘の言葉により母親の後を追おうと思い立った。
私は後追い自殺をする人の心理はあまり理解できない方だったが、漠然と「今ならまだ間に合うかもしれない」という謎の希望か焦りのようなものを感じていた。故人が死んだという実感を得てからでは遅いのだ。

後追いとはこういう事なんだ、と妙に冷静に感心した。

父親や友人、自分の事などが全て頭から抜け落ちていた。


後追い自殺について考えながら黙々と歩いていると、いつからか家の近所の細い裏路地に似た場所を延々とループしている事に気付いた。
適当に右へ曲がると、また近所の細道に似た場所へ入ったが、少し様子が違うようだ。
異様に真っ赤で大きなツツジの花が、道沿いの植え込みを埋め尽くさんばかりに大量に咲いている。道の両脇に立つマンションやアパートには窓もドアもついていない。

歩き続けるとたまに十字路のような場所に出る。
細道から、5メートル程の背丈があり喪服のようなワンピースを着た小学生(ランドセルを背負っていたのでそう思った)がそこを通るのが見える。
小学生は首から上を激しく痙攣させながら歩いていった。巨大な木の建造物が軋むような音が遠ざかって行く。
私は小学生の後ろ姿を見送ると、十字路の真ん中に立って辺りを見回した。
人の気配がまるで無い。
ここからは気兼ねなく泣きながら歩く事ができるだろう。

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