夢日記

自分用

070

私は自宅のリビングで祖母と話している。
電気は点いていないが、壁が一面丸ごとガラスになっている我が家のリビングでは自然光だけでも十分に明るい。外は快晴で、異様なほどに青い空が見える。
祖母はなぜか私の自宅の室内のプランターで野菜を育てており、それを根こそぎ引っこ抜いて私に見せながらその植物の説明をしている。
紫色の芋のようだがさつまいもではなく、一つ一つがてんでバラバラな形をしている。
ザラメのような物が付いており、日光を反射してきらきらと光っている。
私は以前にもその植物の説明をされた事があり、それをもらって食べた事すらあるらしいが、知らないふりをして興味津々なように祖母の話に相槌を打っている。
あまり良くないかもしれないが、私はこうしているのが好きなのだ
祖母はとても嬉しそうに話をしてくれる。






私はよく分からない学校に通っているらしい。
雪山の小さな村に遠足に来たようだ。
私は、その村の外れにもう一つ、無人の村があるという噂を知っていた。
私はそういった不気味な話は好きなので、隙を見て抜け出してその村を探しに行った。

吹雪のような勢いの雪で視界が悪いが、私はなぜかそれに邪魔をされる事はなかった。無風の室内を歩くように身軽に動くことができる。
滑るように高速で移動している。私の歩幅と歩くスピードは合っていないようだ。
適当に歩いていると突然目の前に、高さ3メートルほどはある木の杭を並べてできた壁が現れた。
何かを囲んでいるようだ。外周を回ると、一箇所だけ杭の壁を切り抜いて扉のない鉄格子が嵌められているところを見つけた。
おそらくこれが入り口だろう。私は当たり前の様にその鉄格子をすり抜けて中に侵入した。

そこが噂の無人の村だった。
村とは言うが、公園の様な規模感であり建物らしき建物も見当たらない。
ただ、雪でできた四角い建造物や、たくさんの妙な形のかまくらが乱立していた。かまくら全て同じ方向に向けて作られていた。
私はそのかまくらを見た瞬間、見てはいけないものを見てしまったと強く感じた。
そこから何かが出てくる事を察知して咄嗟に真下を向いた。視界の隅で黒い大きな何かがかまくらから出てきていた。



場面が変わり、私は駅のホームで椅子に座っている。友人も一緒だ
私は友人にその村のことを話していた。
とても怖い思いをした事を伝えていたが、話しているうちに客観的に見るとどこが怖いのか全く分からないな、と気付いた。
そう気付くと無性に、またあの場所に行ってみたくなった。あの黒い物の正体を知りたい。

「でもあの、たくさんのかまくらが全部同じ方向いてるっていうの、「ゆめにっき」っぽくて良かったかも」と言うと、友人は「確かに!写真撮ってくれば良かったのに」と言った。
確かにそうだ。なぜ写真を撮ろうと思わなかったのだろう。
私はかまくらやあの黒い物を写真に収める為に、再びあの村へ向かう事にした。


私はまた吹雪の中を滑るように歩いている。
駅にいた時のままの服装だ。スモックブラウスを着ており雪山に登るにはあまりにも薄着だが、一度目と同じように寒さや冷たさは感じなかった。
ここまでどうやって来たのかは覚えていない。気が付くとまた、目の前に杭の壁があった。
再び外周を回り、鉄格子をすり抜けて侵入する。
すぐにあのかまくらが視界に入った。

また、見てはいけないものを見たと強く感じた。加えて、無音だった辺りから突然吹雪の音が聞こえ始め、その中に轟くような叫び声が混じっている。杭の壁の外に大勢の人が張り付き、こちらに向かって何かを叫んでいる。
私はまた咄嗟に真下を向いた。そしてスマホをポケットから取り出すとカメラを起動し、録画ボタンを押した。そして、自分は下を向いたままスマホかまくらの方に向けた。

遠くで足音が聞こえたかと思うと、突然それは物凄い勢いでこちらへ迫って来た。
そして間近まで来てぴたりと止まった。
私はしばらく固まっていたが、ふと我に返ってスマホを持った腕をばっと下ろし、録画を終了すると一目散に鉄格子へ走った。
足音は追いかけてこなかった。


私はまた駅にいる。
どうやって帰って来たのか分からない。
録画した動画もやはり見てはいけないと感じた。
私は結局その動画を自分で見る事はなく、しかしせっかく撮って来たからと、適当に作ったアカウントを使ってYoutubeに投稿した。
キャプションや題名は付けていない。
見てはいけないと感じていたので、この動画も誰にも見られずにこのまま埋もれて忘れられれば良いと心のどこかで思っていた。



私は地下鉄に乗っている。
あの村に行った日から、文字通り地に足がついていない気がする。
私の歩幅と歩くスピードはずれたままだった。
私はずっとあの日のスモックブラウスを着たままで、化粧や髪型も全く崩れず、時間が止まっているようだった。荷物も何も持っていない。
家にも帰っていないような気がする。
変わった事と言えば、常に片手に中身のない猫を抱えて歩くようになっていた。
家に帰れないのでこれを飼い猫の代わりにしているらしい。

私の投稿した動画はたくさんの人に見られていた。その動画を見ると死ぬという妙な噂が広まったせいだ。
私はそれを信じていなかったが、未だにその動画を自分で見る気にはなれなかった。

駅に着き、目の前の座席が空いたので座る。
私が持ち歩く中身のない猫というのはつまり、内臓や骨を全て抜き取られた猫の生皮というわけだが、周囲の人達はそれを全く気にしていない。
私の事を認識しつつも見えていないようだった。


座ってぼうっとしていると急に虚しくなった。
全てがどうでも良くなり、あれだけ躊躇っていたあの動画の視聴をあっさりと決めた。
私のスマホの動画フォルダには未だあの動画が残っている。私はそれを再生した。
例のかまくら群が映る。その中の一つから、やはり黒い大きな何かが現れた。
それは上半身の異様に発達した、毛むくじゃらの生き物だった。コウモリのような顔をしており、手足は骨張ってぎこちなく動いている。
生き物はゆっくりとかまくらから顔を出してこちらを真っ直ぐに見ていて、かと思うと突如有り得ない動きで猛然とこちらへ駆け寄って来た。

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そして首を伸ばしてスマホに顔をうんと近付けると微動だにしなくなった。

目が奇妙なほどに彩度の高い金色をしている。
しばらくそうしていたが、撮影していた私が逃げ出したので動画は終わった。

私は呆気に取られていた。
こんな物が映っていたなんて。早速友人に教えようと思った。
ふと顔を上げると、同じ車両に乗っていた全ての人達が私のスマホの画面を覗き込みに、音も無くギュウギュウに集っていた。私は驚いてスマホを取り落とした。
人々は落ちたスマホを尚も覗き込んでいる。電車の揺れに沿って床を滑って行くスマホを、瞬きもせずに凝視しながら追う。
滑稽なほどに足並みが揃っている。
私は猫の生皮を抱き締めて席を立つと、人々から距離を取った。

電車が止まり扉が開く。と同時に、人々は突然我先にと車両の外へ飛び出した。
そして向かいのホームに駆け寄り、並んで立つ。
尋常な様子ではない。私はスマホを拾い上げると急いで人々の後を追った。
この人たちは自殺しようとしている。
あの金色が良くない光だったのだと思う。
私が平気だったのはきっと、私が既にこの世のものではなくなってしまっているからだ。
人々にその事を伝えようと必死に叫んで回ったが、今更伝えたところで意味はない。それに、私の声は誰にも届いていないようだった
そろそろ電車が来てしまう。どうしよう?