夢日記

自分用

075

静かな建物の上層階へ向かおうとしている。

一階のフロアには夕陽の差す大きなガラス扉があった。私たちはそこから入ってきたようだ。
しかし友人が言うには、立て看板を読む限りその扉から外へ出る事は許されないそうだ。
私は全くその看板の内容を読む事ができなかった。日本語らしき言語で書かれているのだが、改行や句読点がよく分からない位置にあると感じた。夢の中特有の集中力のなさに悩まされる。
私はそこが夢の中である事を自覚していなかったが、なぜか「うち今夢の中だから脳が寝てて読めない」と友人に伝えていた。
友人も「分かった」と普通に受け入れていた。

周りに人がいる。おかしいのは、その人たちの背丈が異常に高く、全員がこちらを覗き込んで目を細めて微笑んで固まっている事だった。


私たちは逃げるようにしてエレベーターに乗り込んだ。
気がつくと私は見た事のない分厚く白い携帯端末を持っていた。夢の中の私はそれをスマホだと認識しており「一周回ってガラケーたいだよね」と友人に話していた。友人は緊張しているらしく「んー」と生返事をしただけだった。
この場所では、エレベーターの乗り継ぎ方を間違えてはいけないのだという。
看板が読めない私だけが能天気だった。

分厚い携帯端末は、前半分と後ろ半分で二つに分かれた。「」のようなでこぼこした分かれ方で、前半分にはゲームボーイのような簡素な液晶と操作の為の複数のボタンが、後ろ半分には操作できない小さなスマホ風の画面と、乾電池を入れるケースのような物がついていた。
落ち着いてきたらしい友人が「それ片方だけ置いてけってさ」と親指で背中越しにその携帯端末を指した。
私は静けさを打ち消すつもりで電池ケースの付いた方をエレベーターの床に投げ捨てた。床がカーペットのようになっていたため大した音はしなかった。
背後に中学の頃の友人がいる気がする。気配だけが私たちについてきているようだ。


二階のフロアはホテルのフロントのような雰囲気であり、誰もいなかった。
ヒントがないので片っ端からエレベーターの扉を開けてみる。その中の一つに、見覚えのない物ばかり置かれた私の部屋を見つけた。
照明のスイッチの下に看板が貼り付けてある。
友人はそれを読むと「じゃあこれか」と開きっぱなしのエレベーターの中の一つに向かっていった。私もあとに着いて行く。
中学の頃の友人の気配も当たり前のように一緒に乗り込んで来た。


三階のフロアは一階二階よりも少し広めで、物がないオフィスのようだった。
車椅子に乗った社長らしき人物とそれを支える数人の部下が一つのエレベーターから出てきて、やはりこちらを見てにこにこしながら向かいの壁の中へすり抜けるようにして入っていった。
私たちはまた手分けしてエレベーターの扉を開いて回る。
エレベーターの扉の向こう側はエレベーターの中に繋がっているとは限らないようだ。

私が開けた扉の中の一つに祖父母の家のベランダに似た景色があり、端の方で景色を眺めながら談笑している祖父母の後ろ姿が見えた
思わず声をかけるとこちらを振り返って、驚いて嬉しそうに早足で向かってきた。
反射的に足を踏み出したが、友人が気掛かりで向こうへ行っていいものか一瞬迷った。しかしそれを察したように中学の頃の友人の気配が「行ってきなー」と声を掛けてきた。
私は祖父母のもとへ行きたいがあまり、そちらを見もせずに「うん!」と返事をして駆け寄ろうとした。すると、すぐ横でエレベーターの扉が軋む音がした。
咄嗟に飛び退くと目の前で物凄い勢いで扉が閉まった。ポンチョTを着ていたので裾がかなりガッツリと挟まれた。
「何してんだよ!」と少し遠くにいた友人が慌てて駆け寄ってきて、閉まった扉から裾を引き抜くのを手伝ってくれた。
中学の頃の友人の気配はいつの間にか消えてしまった。



なぜか三階から一気に六階まで来た。
エレベーターの扉が開くとすぐ目の前に、淡い緑色のコートを着て手編みの毛糸帽子を被った4歳程度の男の子が立っていた。
夢の中の私はその子を父方のいとこのうちの一人だと認識していたが実際は違う。
その子のすぐ背後は真っ暗だ。エレベーター内の照明がその子を正面から照らしている。
その子は辿々しく「なんで六階に来たの?」「〇〇(私の弟)が四階で畳まれちゃう」というような事を不思議そうに言ってきた。
畳まれちゃうって何?と聞くと「お葬式」と言って突然両手を真上に振り上げ、目と口を異常なほどに開いて立ったままフリーズした

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その様子の異様さに驚きつつ、友人に四階に行きたいと伝えようと隣を見ると、友人も同じように両手を上げて目と口を開き、こちらを直視して固まっていた。
私は何も言えないまま四階のボタンを押したが、乗り継ぎ方を間違えるとまずいらしいという事を思い出し、扉が閉まる前に慌てて友人の両腕を掴み力尽くでエレベーターの外へ転がした。
友人は仰向けで床に転がったが、すぐに上体を起こして両手を上げ顔をこちらに向けてきた。
私は友人たちの不気味な様子をどう気にかけていいのか分からず、ひたすら「ちょっと待ってて!四階行くからちょっと待ってて」と呼びかけていた。


四階は深夜の病棟のような青緑じみたフロアだった。ワックスのよくかけられた床が蛍光灯の光を水面のように反射している。
エレベーターのすぐ手前に、木の車輪のついた大きな卵型のベビーカーか車椅子のようなものがあった。近くに点滴台がある。
中を覗くと、患者服を着た小学生の頃の弟がいた。
「〇〇(私)ちゃん」と普通に話しかけてきた。「入院になっちゃったの!?」と聞くと「違うなんかねーここ座っててって言われた 帰りたいんだけど」と呑気な調子で言うのでホッとした。
「あっち行きたいんだけどさー さっきまで押してくれてた人がいなくなったから押して?」と言う。指さす方を見ると、車庫のようなシャッターの向こうに昭和の戦時下の住宅街があった。
焼夷弾によってあちこちで火事が起きており空が真っ赤だ。人はいなそうだ。
「なんで 危なくない?」と聞くと「んーでもさ だって畳まれたくないし」と言う。
「畳まれる」という言葉でさっきの子どもと友人の奇行を思い出し、ゾッとして弟に目を戻したが特に変わった様子はなく安心した。
外は危険かもしれないが、弟が死んでしまうよりはましだ。それに、心のどこかでこの弟は本物ではないはずだ、もし死ぬとしても私だけで済むだろうと思っていた。
ただ、すぐに戻るつもりで友人に「ちょっと待ってて」と連呼してしまった事が気掛かりだった。