父方の祖母が旅行で数日間家を空けるので、その間祖母の飼ってい
祖母の家は私の全く知らない場所になっていた。リフォームをした
私は夜中に中二階の部屋で仕事をしている。この部屋の内装はあま
複雑で大振りな凹凸とトマソンじみた複数の窓が設置され、バグの
その窓の内の一つが開けっ放しになっており、その奥に私のお気に
取ろうとすると、誤って窓に触れてしまったらしく窓が閉まりマグ
閉まった窓は外から開けないといけない。
外に出る為に一階に降りると、祖母の犬が洗面所と廊下の境目に佇
祖母の犬は規則正しく睡眠を取る。この時間に起きていることはま
「起こしちゃった?ごめんね」と声をかけるが反応が無い。祖母の
見える場所に行ってあげようと洗面所に入り犬と向き合うと、犬に
偽物であるようだ。
本物の犬は寝床にいるのだろうが、念の為に様子を見ておこうと思
祖母の家には元々、防寒の為にあらゆる場所にカーテンが吊るされ
すぐそこにあるはずの犬の寝床に辿り着けず、大量のカーテンをか
偽物の犬がカーテンの隙間にいくつも置いてある。
突然、このままでは犬が消えてしまうと感じ不安になった。
犬に聞こえるよう、有らん限りの大声で犬の名前を呼びながらカー
カーテンを一枚開ける度に偽物の犬が現れる。
かなりの長距離を進んだと思ったところで、遠くで犬の吠える声が
再度名前を呼ぶと、犬の吠える声は猛然とこちらへ近付いて来た。
声のする方のカーテンを開けると、祖母の犬が弾丸のような勢いで
顔と耳のある本物の犬だ。とても嬉しそうにじゃれ付いてくる。
私は安堵して「良かった〜!」「偽物しかいなくてどうしようかと
顔を上げるとそこは大学の廊下になっていた。
高校の頃の同級生が柱の影に直立してこちらを見ている。
彼女とは違う大学に進学したはずだが、ここの在校生という事になっていた。「偽物しかいなくてどうしよ
人見知りの犬は在校生を警戒している。
在校生は「仕事よかったじゃん」と言う。途中で大学に通えなくなった私への皮肉かと思ったが、在校生は心底恨めしそうにこちらを見ていた。
気まずさを覚え犬に「帰ろ」と小さく話しかけてバス停の方へ早
在校生は「帰ろ」と繰り返しながら後についてきた。
この在校生もきっと偽物だろう。
私が今抱いている犬だけが本物であり、この世界で唯一信用できる存在だと感じる。