夢日記

自分用

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私は小学生程度の年齢の架空の兄になって絵画教室のような場所で授業をさぼり、架空の弟と組んで悪さをしていた。

ある日私たちのいたずらが教室付近を撮影している防犯カメラに映り込んでしまい、先生に見つかった。

先生は仏頂面でがたいの良い無口な男性だ。

当然怒られるかと思ったが、先生は教室の外の寂れた駐車場の端に私たちを連れてきた。



先生は、そこに埋まっていた鉄の台のようなものに両手をかけると、怪力でそれを地面から引っこ抜いた。

その全容は大きな鉄の箱のようなものだった。

それを開けると中身は軽自動車のような印象の内装で座席が四つあり、運転席にあたる席に私たちの姉?がぐったりと座っていた。

とうの昔に死んでいるらしいが、外見上目立った異常は無くただ血の気が無いのみで、精巧な人形と見紛うほどの美しい遺体だった。

 

しかし私たちがそれを視認して数秒後、姉の遺体は突如弾け飛んだ

姉の血飛沫や肉片は青と黄色のペンキのような物質になってそばの壁や車に飛び散り、計算されたような綺麗な模様を描いた。

 

どうやら鉄の箱は自身とその血縁者を代償として差し出すことで願いを叶えるもしもボックスのようなものらしい。

私たちは姉により代償として差し出されたようだ。姉の遺体を目の当たりにした途端に氷の彫像のような体になってしまった。

不自由なく動けはするものの、今後日常的に氷を補充し続けなければ溶けて消えてしまう。




代償とされた私たちは本来の私たちの存在と分離し、実質的に身寄りがなくなってしまった。

先生はそんな私たちをどこかへ連れていってくれるようだ。

先生に言われる通りに先生の車に乗る。

着いた場所は古い一軒家だった。

父方の祖母の家だと認識していたが実際は違う。

 

私たちは急な階段を二階へ駆け上がり、カーペットの敷かれた床に寝転んだ。

先生は先程とは別人の、眼鏡をかけた厳しそうな若い女性に変わっていたが、私たちは気にせずに浮かれたまま「ここに住んでいいの?」「先生ありがとう!」と無邪気に転げ回ってはしゃいでいた。

先生は「どういたしまして」とあやすように言いつつ深刻そうな顔をしていた。

それから先生は、私たちの状況を説明する為のVHSテープを持ってきた。

この状況に関連するVHSがあるということは、人が鉄のもしもボックスの代償となる事はかなり昔から複数回発生しているのか、等と考えている内に、著しく低下していた精神年齢が元に戻り始めた。

 

先生は神妙な顔でビデオデッキを操作した。

しかし再生が始まるとそれはPoppy PlaytimeのThe Most Incredible DollのVHSである。

厳しそうに見えた先生は突如崩れ落ちるようにして顔を覆い、この失敗をひどく恥じた。

先生は極端な完璧主義者であったようだ。

私は子どもらしく話題を逸らそうと思い、「ポピーちゃんだ!このゲーム大好き!」「こわいけど面白いんだよ」等と弟に熱心に語りかけ、映像を食い入るように見るそぶりをした。

先生はそれにつられてくれたのか、「そう?好きなのね」と少し穏やかな表情を見せた。




「死んだ方がいい?」と突如女性の声が聞こえた。

「え?」と聞き返すと「私、死んだ方がいい?」と再度聞かれた。あっけらかんとしていて、且つこちらを気遣うような落ち着いた声色だ

見ると今いる部屋の近くに他の部屋に続く木製の質素な扉があり、その扉のテクスチャを貫通するように何かがこちらへ突き出ている

ごく一部しか見えなかったが私はそれを、レゴやカラフルな布でできた二メートルほどの大きさの鳥居だと理解し、加えてそれが父方の祖母である事も理解した。

 

「だめ、やめて?」とそちらに呼び掛けるがこちらの部屋では未だにVHSの再生が大音量で続けられており、私の声は届かなかったようだ。

私は慌てて隣の部屋へ駆け込んだ。



隣の部屋は無音だった。

そこは会議室のような白い部屋で、入って右側の壁一面がガラス張りになっており、その前に弧を描くように湾曲した白い細長い机があった。

机に沿って並べられたオフィスチェアに、私の父親、叔父、叔母の三人、つまり祖母の息子娘たちが揃って座っており、何かを話し合っていた。

祖母はその後ろで立ち尽くしている。

 

話の内容を聞こうとしたが、私が会議室に入ってきた時点で大人たちは話し合いを中断した。

父親が何を考えているのか分からない顔でこちらを見、仕方なさげに笑った。

叔父と叔母が心の内を読みにくい表情(血筋だろうか)で「戻って弟くんと遊んどいで」「ここは鍵をかけるから」と穏やかに私をこの場から閉め出そうとしている。

 

私はひとまず時間を稼ごうと思い、くねくねとした態度で照れ笑い?をしつつライトに抵抗した。

私の氷の体は時間が経って随分小さくなっていた。本格的な抵抗の姿勢を見せて大人を怒らせては、容易くつまみ出されることになるだろう。

大人たちは仕方なさげに笑いながら、私に口頭や身振り手振りで部屋からの退出を促し続ける。

 


ふと祖母が一人で何かを話している事に気付いた。

「怖いのよ、外なんか出られない」「あの自販機のとこ見てよ、黒い男の人がいるでしょ?」と窓辺に恐る恐る近付く。

それから突然顔を覆ってよろよろと窓から離れ、「見られた!こんな顔見られてどうしようもないわ 私ったらなんでしょうね、もう」といつもの調子で、しかし誰にともなく喋っている。

様子がおかしいのは一目瞭然だった。

後ろにいた父親を見上げると、父親はようやく口を開き「少し怪我をしてね ずっと通っていたプール教室に行けなくなってしまって、自信を無くしてしまったみたいです」と小声で穏やかに私に説明してくれた

私が見知らぬ別人であるため口下手な父親は緊張しており、他人行儀である。

祖母が通っているのは気功教室だ。

 

私は父親に相槌を打ち、その情報を踏まえて祖母と改めて向き合おうと振り返った。

しかしその頃には祖母はずいぶん遠く、この部屋の出口付近まで移動していた。

父親が「こら、どこに行くんですか」と少し声を張って呼び掛ける

私が祖母の方へ駆け寄ると、祖母は私に耳打ちするように「今なら行ける気がしたのよ、克服できるかも」「〇〇ちゃん(私)のおかげなのよ だから着いてきてくれる?」と言い、既にドアノブに手をかけている。

祖母だけがなぜか私を私自身として認識している。

大人たちは危ないからやめなさいと言うだろう。

引き止められれば従わざるを得ないのだ。私は引き止められる前に飛び出してしまおうと咄嗟に考え、「いいね!行こう」と返事をし、扉が開くと同時にすり抜けるようにして外へ出た。




会議室は二階にあったはずだが、扉の向こうは地上だった。見た事のない郊外の住宅地のような景色が広がっている。

夢の中ではここが祖母の家周辺ということになっていた。

 

祖母はハキハキと歩きながら、等間隔で設置された複数の自販機を注視している。

私は祖母と手を繋いでついて行っていたが、氷の体なので祖母の体温で体がだんだんと溶けて小さくなり、祖母に手が届かなくなった

もう膝下程度の背丈しかない。

しばらく来た所で私は「おばあちゃん、私今氷でできてるから、一旦帰って氷を補充しなきゃいけないかも」と祖母に伝えた。すると祖母は「えっ、そうなの!ごめんね」「でも、今帰ったら捕まっちゃうかしら?」とおろおろした様子だ。

「氷を補充しないとどうなるの?」と聞かれ、消えて無くなると答えかけたが、それでは祖母に帰宅を余儀なくさせてしまう。

私は「わかんない 具合悪くなったりするのかな?なった事ないけど」と曖昧な返事をした。

「今は大丈夫?」と聞かれ「うん」と答えると、祖母は「じゃあ、あの坂の上の自販機まで行きたいの 一緒に来てくれる?」と、百メートルほど先に見える赤い自販機を指さした。

おそらくその距離の往復をすると私は家に帰るまで保たないような気がする。しかし私はそれを知らない事にして「うん!」と勢いよく返事をした。



すると祖母は突如猛然と走り出した。

私の返事の勢いの良さに触発されたのだろうか。

もしくは私が溶けきる前に帰らなければという焦りからの行動なのかもしれないが、それならば肝心の私を地面に置き忘れている。

私は慌てて祖母の後をついて全力で走る。

祖母は異様なまでに速かった。

私の体が極端に小さくなっていたせいもあるだろうが、走れど走れど祖母に追いつく事ができない。

必死に走りすぎて体がどんどん溶けている。しかしここで諦めては祖母を見失ってしまうような気がしてならない。

私は祖母から目を離さないようにしながらひたすら追いかけた。

 

祖母は目的の自販機の前で立ち止まった。

私もかなり遅れてどうにかそこに辿り着く。祖母は憑き物が落ちたような爽やかな顔をしていた。

「付き合わせてごめんなさいね」「でもこれで全部済んだから」と息切れ一つしていない様子で朗らかに話しかけてくる。

それを見て安心すると同時に「ターボばあちゃん」の話を思い出して段々と面白くなってくる。

「大変、こんなにちっちゃくなっちゃった」「急いで帰らなきゃ」と祖母は手のひら程度の背丈になった私を拾い上げた。

帰りは運んでくれるようだ。祖母の疾走感を体験する事ができる。